ニ『悪魔の尿溜』探検の飛行機でもみたんだろうよ。しかし、五度や六度で、馴れるとは思われないな」
 太古以前の、原始生活をしていたはずのドドが飛行機に驚かない――これはまさに不思議以上だ。やはりこれはアッコルティ先生が一度疑ったように、ドドは一種の作りものではないのか。そう思ってながめると、とうてい想像もできないようなおそろしい秘密が、ドドの肉体に隠されているように思われて、しみじみそら恐しくさえなる。
 暗くなってきた。すると、雨靄《もや》のむこうから、ボーッと汽笛がひびいてくる。E・D・S《エルダー・デムスター》[#ルビは「E・D・S」にかかる]の沿岸船ベンガジ丸が、いまモザンビイクにはいってきたのだ。しかしその船は、やがて悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]へ一同を駆《か》りやろうとする、運命の使者を乗りこませていたのである。

   善玉悪玉嬢《ミス・ジキル・ハイド》

 ベンガジ丸には、ヤン・ベデーツというベルギー青年が乗りこんでいた。
 これは、マヌエラの父の旧友の息子で、マヌエラとは筒井筒《つついづつ》の仲だが、うま[#「うま」に傍点]があわぬとい
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