tってから大分になるんだね」
「いいえ、此処《ここ》へきてまだ七日ばかりですよ。第一ドドが、僕の手に落ちてから二週間とはなりません」
「ドドとは……」
「僕らがつけた、この紳士の名前です」
「はっはっはっは、じゃ、有尾人ドド氏というわけだね」
とアッコルティ先生が笑っているなかにも、なにやら解《げ》せぬような色が瞳のなかにうごいている。野生のもの、しかも智能のたかい猿人的獣類が、わずか十日か二週間でこうも懐《なつ》くはずがあるだろうか。
「ときに、君はこのドド氏をどこで獲ったのだね」
「場所ですか」とカークは思わせぶったようにすぐには答えず、まず、ドドを捕まえるにいたった一仍《いちぶ》始終を語りはじめた。
「とにかく、ドドが懐いたというのは、最初の出がよかったからですよ。僕は先生のお説の、ゴリラ定期鬱狂説を利用して、今度こそ六尺もある成獣を捕えてやろうと思って出かけたのです」
アッコルティ先生は、前年度の学会にゴリラ定期鬱狂説を発表して、斯界《しかい》に大センセーションをまき起した。
ゴリラには、憂鬱病《メランコリー》と恐怖症《ホビー》が周期的にきて、その時期がいちばん狂暴になり
前へ
次へ
全91ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング