「ったらなかった。一眼鏡《モノクル》の、目をあけたままポカンと口をあけ、やっと経《た》ってから正気がついたように、
「おう、有尾人《ホモ・コウダッス》!」と唸《うな》るように呟《つぶや》いた。
 それは、全身を覆う暗褐色の毛、丈は四フィートあるかなしかで子供のようであり、さらに一尺ほどの尾が薦骨《せんこつ》のあたりからでている。といって、骨格からみれば人間というほかはないのだ。しかし、頭の鉢が低く斜めに殺《そ》げ、さらに眉のある上眼窩弓《じょうがんかきゅう》がたかい。鼻は扁平で鼻孔は大、それに下顎骨《かがっこつ》が異常な発達をしている。仔細《しさい》に見るまでもなく男性なのである。
 それはまあいいとして、この有尾人からは、山羊《やぎ》くさいといわれる黒人の臭《にお》いの、おそらく数倍かと思われるような堪《たま》らない体臭が、むんむん湿熱にむれて発散されてくる。アッコルティ先生は、ハンカチで鼻を覆いながらじっと目を据《す》えた。
「ふむ、温和《おとな》しいらしい。ときに、君らには懐《なつ》いているかね」
「ええ、そりゃよく」とカークが煙草の輪を吐きながら答えた。
「すると、これを獲《と
前へ 次へ
全91ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング