チて一蹴してしまったのである。これにはヤンも座間と同様おどろいたことだろう。しかし、彼は一夜の甘味をけっして忘れるような男ではない。どんなに白眼視され相手にされなくても、またのチャンスを狙いながら探検隊をはなれなかったのである。
まったくマヌエラには、座間もヤンもおなじ考えにちがいない。不思議な女だ、二重人格かドドの所業かと……、ヤンが、鉄面皮を発揮して探検隊に加われば、座間はあれこれと非常に迷いながらも頑固な壁をマヌエラに立てつづけているのだった。
ところで、この探検の費用はマヌエラの父がだし、それも座間が疲労を癒《いや》す物見遊山としか考えていない。
カークも、大湿林の咆吼《ほうこう》をよぶ狂風を感じはするが……、死を賭《と》して、不侵地悪魔の尿溜をきわめようなどとは、夢にもさらさら思わないことだった。そしてまた、マヌエラも、おなじように考えていた。ただ、しばらく仕事から離れればと……、ちかごろ座間の様子がじつに変であるだけに、どうかこの旅行で静養してくれと、じっさい悪魔の尿溜のことなど最初から頭になかった。しかも、座間とてもおなじように変ってきている。
それは、さいしょカークと二人だけと思ったところへ、意外にもマヌエラが加わるし、ヤンが追ってくる。そうして、絶えずマヌエラの美しさをみていると、この探検は、じつに悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]攻撃にあるのではなく、ヤンを除く、天与のまたとない機会のように思われてきた。密林、鰐《わに》のいる河、野獣、毒蛇。ここでは、下手人に代ってくれるあらゆるものが豊富だ。
と、その考えが、やはりヤンにもあるらしい。そうして、二人は胸に敵意をひめながら、どうやらさいしょの意図とはちがってしまった探検隊が、数日後はコンデロガを発ったのである。
ところで、悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]攻撃の進路であるが、それは、西方、南方の境界部はコンゴの「類人猿棲息地帯《ゴリラスツォーネ》」、北は、危険な流沙地域である大絶壁にかこまれ、わずか東のほうに密林帯が横たわっている。ところが、これまでの数回の探検隊とも、そこへはいると同時に消息を絶ってしまうのだ。まったく、木乃伊《ミイラ》取りが木乃伊というあの言葉のように、あとからあとからと続いても一人の生還者もない。しかし一同は
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