ひねくれもの》で、祖母とは名のみのお筆と一所に住んで行くのには、到底《とうてい》耐えられなくなった矢先の事とて、光子が杉江を、いっかな離すまいと念じているのも無理ではないのである。全く、工阪杉江と云う婦人には、寧ろ女好みのする魅力があった。年齢《としのころ》はまだ三十に届いたか、届かぬ位であろうが色白の細面《ほそおもて》に背の高いすらりとした瘠形《やせがた》で、刻明な鼻筋には、何処か近付き難い険があるけれども、寮に来てからと云うものは、銀杏返しを結い出して、それが幾分、理性の鋭さを緩和しているように思われた。然し、そう云った年配婦人の、淋し気な沈着《おちつき》と云うものは、また光子ぐらいの年頃にとると、こよなく力強いものに相違なかった。そして、次第にその二人の間は、師弟とも母子《おやこ》ともつかぬ、異様な愛着で結ばれて行ったのであるが、然しその時だけは、杉江の口の端に焦《じ》り焦《じ》りしたものが現われ待ち兼ねたように腰を浮していた。
「光子さん、先刻《さっき》からお祖母さまがお呼び立てで御座いますのよ。いつものお雛様をお飾りになったとかで。いいえ、行かないでは私が済みません。あのお祖
前へ
次へ
全36ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング