分の景と変り、ちらりと火が灯《とも》ります。首尾よう参りますれば、お名残惜しうはござりまするが、そういう様へのお暇乞い。何んよい細工で御座りましょうが。)と呼び立てるのを聴けば、年柄もなくそのからくり屋を光子が門前で引き止めていたらしく思われる。
まことに、そのような邪気《あどけ》なさは、里俗に云う、「禿《かむろ》の銭《ぜに》」「役者子供」などに当るのであろう。けれども、また工阪杉江にとると、それが一入《ひとしお》いとし気に見えるのだった。全く光子と云う娘は、又とない内気者――。人中《ひとなか》と来ては、女学校にさえ行く事が出来ない――と云っても、それが掛値なしの真実なのであるから、当然そこには家庭教師が必要となって、工阪杉江が招かれるに至った。然し、そうして杉江が現れた事は、また半面に於いても、光子を永い間の寂寥から救う事になった。と云うのは、十歳の折乳母に死に別れてからは、時偶《ときたま》この寮に送られて来る娘はあっても、少し経つと店に突き出されて、仙州《せんしゅう》、誰袖《たがそで》、東路《あずまじ》などと、名前さえも変ってしまう。そんな訳で、唯さえ人淋しく、おまけに、変質者《
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