》から見た時、明るい窓が一つあったでしょう。それがこっち側の回転窓を通して見た、この壁燈の光なんです。点《つ》け放しなんて――こんなことは、ラザレフの吝嗇《けちんぼ》が狂人にでもならなけりゃ、てんでありっこないのですがね。」
 その時、検事がルキーンの袖を引き、無言で天井の床を指差した。そこには硝子《ガラス》窓の明り取りが開いていて、背の高い検事には、そこから、静止している二人の女の裸足が見える。寝台にならんで腰を下しているらしい。ルキーンは二三段跳び上って、
「アッ、影が動きましたぜ。してみると、姉妹には別条ありません。ヤレヤレ、飛んだ人騒がせだったぞ。いや、たぶん鐘声などにも、案外下らない原因があるのかもしれませんよ。」
「それにしても、起きているくせに、さっきはどうして応《こた》えなかったのだろう。」検事は腑《ふ》に落ちぬらしく呟《つぶや》いたが、ルキーンはなぜか急に当惑気な表情を泛《うか》べて、答えなかった。
 鐘楼はまったくの闇だった。上方から凍えた外気が、重たい霧のように降《ふ》り下って来る。二人の前方|遙《はる》か向うには、円形の赭《あか》い光の中に絶えず板壁の羽目が現わ
前へ 次へ
全73ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング