と》にいる彼等にも判然と聴き取れるので……、今か今かと待つうちにも、よほどの時間が経過してしまった。
「ただごっちゃないぞ。」奥歯をギリリと鳴らして、検事が綱から手を放すと、その手に法水は合鍵の束を与えた。そして、七本目がようやく合って、扉《ドア》が開かれた。
法水の細心な思慮は、いち早く階段を駈け上ろうとする二人を引き止めて、まず検事に、今入った入口の扉際で張り番をさせ、自分はルキーンを伴って、階下の室々を調べ歩いた。荒れるに任せた礼拝堂は、廃墟のような風景であった。円天井《まるてんじょう》の下には、十ばかり聖像《アイコン》があるのみで、金色燦然たる天主教の聖器類は影も形もなく、装飾箔を剥がした跡さえ所々に残っていた。法水の調査は、便所と急造の炊事場を最後に終ったが、どこにも人影は愚か、異状らしい個所は発見されなかった。
検事のいる扉際に戻ると、法水は鐘楼に出る左側の階段を上り、検事とルキーンは右側のを上って行った。
「これが解せないのですよ。」緩く迂回《うかい》しながら伸びている階段の中途の壁に、点《つ》け放しになっている壁燈《かべあかり》を見て、ルキーンが云った。「戸外《そと
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