りかねて叫んだ。「なるほど、鴉《からす》や鳶《とび》ぐらいでは、あの鐘はビクともしないぜ。」
不思議な侏儒《こびと》ルキーンの出現は、それまで多寡《たか》を括《くく》っていた、法水の鐘声に対する観念を一変させた。そして彼は、凄惨な雰囲気の中に、一歩踏み入れたような気がした。…少なくとも、鐘声と一寸法師[#底本では「一寸法帥」と誤記]とが偶然の逢着でさえなければ、因果関係の結論として、いかなる形体《かたち》にせよ、聖堂の中へ残されたものがなければならない。凍った地面がバリバリ砕けて、下の雪水が容赦なくはねかかった。やがて、幾百と云う氷柱《つらら》で薄荷糖《はっかとう》のように飾り立った堂の全景が、朧気《おぼろげ》に闇の中へ現われた。
出入口の把手《ノッブ》を捻《ねじ》ってみると鍵が下りているので、ルキーンは検事を振り仰いで、
「一つ、そこに下っている綱を引っ張ってみて下さい。それで鳴る鳴子《なるこ》が親爺《おやじ》の方にも娘の方にも、両方の室にあるのですから。」
ところが、検事が懸命に引く鳴子に対して、内部《なか》から誰一人応ずるものがない。そのくせ、内部で鳴っている音が、戸外《そ
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