れて、法水の持つ懐中電燈が目まぐるしい旋回を続けていた。それがようやく一点に集注されると、ルキーンはアッと叫んでドドドッと走り寄った。半ば開かれた扉の間に、長身|痩躯《そうく》の白髪老人が前跼《まえかが》みに俯伏《うつぶ》して、頤《おとがい》を流血の中に埋めている。
「ああ、ラザレフ!![#「!!」は一文字、面区点番号1−8−75]」ルキーンはガクッと両膝を折って、胸に十字を切った。「フリスチァン・イサゴヴィッチ・ラザレフが……」
二
「絶命しているのかい?」検事が片膝をつくと、法水は屍体《したい》の左手をトンと落して、
「ウン、咽喉《のど》をやられたんだ。兇器が屍体付近にないのだから、明白な他殺だよ。それに、こんな低温の中でまだ体温が残っているし、硬直が始まり掛けたところだからね。絶命はたぶん四時前後だろうが、その一時間後に鐘が鳴っているんだ。」と云ってからルキーンに、「君、開閉器《スイッチ》はどこだね?」と訊《たず》ねた。
「いや、鐘楼には電燈の設備がないのです。それから、姉妹には別条ないようですが。」
「それが、起きているのだから妙なんだよ。」検事が口を挾《はさ》ん
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