だ。「鳴子の音を聞いても返事しなかったのは、事によると、姉妹はこの事件のことを知っていて、僕等に妙な感違いをしたのかもしれないがね。」
「何にしても、それは大したことじゃない。しかし電燈がないと、明け切るまで待たなくてはならんな。」法水は悠長な言葉を吐いたが、さっそく検事に手配を依頼して、その最後に、警察医と本庁の課員以外は構内に入らせぬようにして欲しい――と云う旨を付け加えた。
それから三十分後に、検事が警察医を伴って上ってくるまでは、暗黒の中で屍体を挾んだ二人の無言の行であった。ただルキーンが、
「やっぱりワシレンコだな。あいつも可哀そうに。」とかすかに呟くのを聴いたのみで、それを法水が問い返そうとした時、階段を上る跫音《あしおと》[#底本は「《あしあと》」と誤記]が聞えたのであった。しかしもうその時には、塔の上層に黎明《れいめい》が始まっていて、鐘群の輪郭が暈《ぼ》っと朧気《おぼろげ》に現われて来た。
「上の小鐘は暗くて判らんが、下にある大鐘だけは二つ見える。」警察医が屍体を検案している方には見向きもせず、法水は仰向いて独語した。「床から円蓋《ドーム》の頂点までが五|米《メート
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