円筒が気流によって廻転を始めるにつれ、やがて紐は手繰《たぐ》られてピインと張り、片方の端にある短剣を吊り上げたのです。ところで、氷柱が動力線に達するまでの時間と円筒の廻転数との間に、非常に精密な計算が必要だったと云うのは、短剣が大鐘の裾に達する寸前に氷柱が電流を導かねばならなかったからです。なぜなら、触電によって鐘に起る磁性を期待する以外に、短剣の投擲を実現する方法がないからでした。つまり、鐘に起った磁力が短剣の頭を吸いつけたのですが、一方釣り上げられるので横様になったところを、もう一つの鐘が銅製の鍔《つば》を弾き飛ばしたのです。その時、束に糸を粘着させていた凝血が剥《は》がれて、それが鐘楼の採光窓の付近に落ちたのですよ。また扉の前方にあったのも、糸が通過した径路を証明する以外のものではありませんでした。そうして、糸は鍵穴を通過し終って置洋燈の円筒の中に巻き納められ、と同時に、それまで糸に支えられていた鍵の押金が垂直に下りて、それで犯行の全部が完全に終りました。」
 証明が終ると法水の顔から照りが引いて、
「どうです!?[#「!?」は一文字、面区点番号1−8−78] 今度は鐘声を中心に
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