れていたものが、振綱の下から五寸程のところに刺さっていたのですからね。」
「マア、」イリヤは思わず驚嘆の声を発したが、「でも短剣は? なぜあんな途方もない場所に捨ててあったのでしょう。」
法水は最後の推論に入った。
「それは、あの置洋燈《スタンド》が投げたのですよ。姉さんはラザレフの絶命を見定めると、咽喉から短剣を抜き取ってそれを階下の洗面所で洗ってから、ふたたび鐘楼に戻って来ました。今度は長い麻糸の先に錘をつけて、それを二つの大鐘の中間を目掛け横木を越えるように投げ上げたのです。そして、一方の端を、短剣の束に凝固しかけた糊のような血潮で粘着させてかき、片方は振綱に挾んである足踏み用の瓦斯《ガス》管から、扉の鍵穴を通して、その端を置洋燈《スタンド》の内側の、筒を廻転させる芯に結びつけたのです。もちろんこの装置は、外側から鍵を下す操作の終らないうちに仕掛けられたのですから、鍵の押金が上向いている鍵穴には、二本の糸が通っていたわけです。そうして、姉さんはまず糸で鍵を操って扉を閉めてから、氷柱の具合を見定めて置洋燈に点火し、鎧扉《よろいど》式の縦窓《たてまど》を開きました。ですから、内部の
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