を増すとともに、その下端が感光膜の巻軸を押して、徐々に伸ばして行くのです――それが、姉さんの思いついたすばらしい趣向《アイデア》なんですよ。そうしてついに伸び切った時、アルミニウム粉の線の末端が、動力線の被覆を傷つけた個所に触れるのですから、否が応でも瞬間電流が塔上の大鐘にまで伝わらなくてはなりません。で、その結果は云うまでもなく明白です。無論氷柱は瞬時に消失して感光膜が発火しますが、やがて銀色の軽金属粉を包んだ白い灰が、水滴の重さに耐えず地上に崩れ落ちるのです。しかし比重が軽く積雪に対して擬色のある金属粉は、次第に散逸して行って、捜査官の視力の限度を越えてしまうと同時に、それで機構《メカニズム》のいっさいが消滅してしまうのですよ。ですから、伝った瞬間電流が振錘の氷結を解けば、当然振錘が反対側にぶつかるとともに傾斜が戻るのですから、その結果振綱を引く以外には動かすことの出来ない鐘の振動が起って、ああ云う奇蹟が現われたわけですよ。無論昨夜の鐘は、折よく天候に恵まれたので、僕がそのままを再演したに過ぎません。しかし何より貴重な暗示だったのが、あの髪飾りの薔薇《ばら》でした。踏み躙《にじ》ら
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