かねばならないのは、一昨日の天候です。なぜかと云うと、横殴りの風を伴った霙《みぞれ》の真最中五時頃に、姉さんは犯行の最初の階段を踏んだからです。あの時振綱の真下で父娘が猛烈な争論をしたと云いましたが、姉さんの真実の心は他にあったのです。足でだんだんと綱の端を踏みながら、片手に渾身の力と体重をかけて徐々に綱を引き、鐘を傾けました。無論小鐘は水平になったでしょうが、大鐘はやや傾いて振錘《ふりこ》が内壁に接触します。ところが、あの吹き降りです。間断なく吹き込んでくる霙は、やがて振錘と内壁とをペッタリ氷結させてしまうではありませんか。しかし、上方に隠れている小鐘には無論影響ありませんが、大鐘は後で綱を戻しても、重たい振錘《ふりこ》が一方の壁に密着しているので、当然重心の偏しただけ傾かねばなりません。」
「そうしますと、鳴らしたのは。」
「電流が振錘の氷結を溶したからです。で、その径路を説明すると……、鉄管の端に集った水滴が感光膜《フィルム》の上に伝わり落ちますが、ツルツルしたセルロイド面からは滑り落ちて、凹凸のあるアルミニウム粉の上にだけ溜ります。そして、そこに出来上った氷柱が、線状なりに長さ
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