、脱出して行くルキーンの姿が描かれているでしょう。もちろんそれは、姉さんの仕組んだ二つの不在証明《アリバイ》の一つなのです。外側から鍵を下す技巧は相当幼稚なものですが、鐘声はその神秘感ばかりではありません。幸い解けたものの、さてあれ程の計画を創作出来るかと聴かれたら、残念ながら否《ノウ》と答えるよりほかにないでしょう。とにかく姉さんは、これまで僕に挑戦した犯罪中最大の強敵でしたよ。」
「そうすると、姉は死刑でしょうか。」イリヤはとうとう触れてしまったが、法水は告白書の終りの数行を折って示した。すると、いきなり彼女は机の端をギュと掴んで血相を変えた。
「毒!![#「!!」は一文字、面区点番号1−8−75] では、貴方《あなた》は姉に自殺を……」
「冗談じゃない。怒るのは僕の話を聴いてからにして下さい。」法水はそう云って立ち上り、彼女の肩に優しく手を置いた。「昨日の夕方、僕が帰りがけに貴女方の室へ寄りましたね。その時、そっと姉さんのポケットへ忍ばせておいたのです。無論すぐ気がついたでしょうが、夜半に鐘が鳴ったりして服毒する機会がなく、今日になって貴女の外出を待つよりほかになかったのです。と
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