な騒ぎだったそうですね。」
「ええ、でも捕らないのはなぜでしょう。入ったのが明らかなのに、足跡はないし、鐘があんな鳴り方をするなんて。」
「当然《あたりまえ》ですよ。ありゃあ僕が鳴らしたのですから。それで、ラザレフ事件は解決されました。」とびっくりしたイリヤを尻眼にかけて、法水は置洋燈の底から一通の封書を取り出した。
「すると、もしや姉が……?。」
「そうです。姉さんの告白書です。」法水はさすが相手の顔を直視するに忍びなかったが、イリヤはそれを聴くと、全身の弾力を一時に失って椅子の中へ蹌踉《よろ》めき倒れ、しばらくあらぬ方をキョトンと※[#「※」は「目+爭」、第3水準1−88−85、154−下10]《みは》っていた。その間、法水は告白書に眼を通していたが、程なくイリヤは我に返って、歔欷《すすりなき》を始めた。
「信ぜられませんわ。姉さんはなぜ大恩のある父を殺さなければならなかったのでしょう?」
「それは、ある強い力が、姉さんを本能的に支配しているからですよ。」そして法水は、特に刺激的な用語を避けて、ジナイーダの犯罪動機を語り始めた、「私は、あの人がカルメル教会派の童貞女だったと云うこと
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