鳴神《なるがみ》式な色模様を、ラザレフは見ることが出来たのだ。」
法水はニヤニヤ微笑みながら、濛々《もうもう》と烟《けむ》ばかり吐き出していたが、
「なるほど、各人各説と云うわけだね。それでは支倉君、君は手燭をどう説明する?」
「それはこうなんだ。その時ラザレフは、最初五|分《ぶ》ばかりに残った蝋燭を点《とも》して、扉の前に立ったのだが、左手が不髄なために一まず手燭を床の上においてから、扉を細目に開いたのだ。そうして、手燭を消すのも忘れて凝視しているうちに、やがて蝋燭は燃え尽きてしまい、その暗黒の中で、最後の怖ろしい断定を前方に認めねばならなかったのだ。ところで、ラザレフの自殺を発見したルキーンが、それからどうしたかと云うに、彼はそれを利用して、対ジナイーダの関係を有利に展開させようと試みた。と云うのは、ルキーンの邪推からジナイーダの蔭にあり――と信じたワシレンコを除くことで、深夜会堂の周囲を狂人のように徘徊《はいかい》している姿を目撃したからだよ。そしてイリヤに口止をしてから、短剣を抜き取って姉妹の室に鍵を下し、それから、君の推定通りの径路を辿って、構外に脱出したのだ。さて、そうな
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