しよう。僕はナデコフの置洋燈《スタンド》を見てから、ラザレフとルキーンとの間にもっと深刻な秘密――、と云うより、ルキーンがこの老人の致命的な弱点を握っているのではないか、と考えられて来た。で、それと交換条件にルキーンはジナイーダを求めたのだろうと思うね。しかし、ジナイーダは頑強に拒み続けるので、縺《もつ》れに縺れた紛争は恐らく夜半を越えたに違いないのだ。だから、ルキーンは電報がきても実際は行かずに食堂の中に止っていたのだよ。ところが、そうして抜差《ぬきさし》のならない窮地に陥ったラザレフは、たちまち一策を案じたのだ。それは、妹のイリヤに含めてルキーンに挑《いど》ませることだよ。あの女はどこか変態的なところがあると見えて、自分からルキーンに対する感情を告白しているぜ。しかし、ジナイーダに対する執着の飽くまで強いルキーンは、妹娘には手を触れようともしない。それがために、そのなりゆきを扉《ドア》の隙から窺っていたラザレフは、ついに絶望のあげく自殺をとげてしまったのだよ。君は点け放しになっていた壁燈を憶えているだろう。多分ルキーンが消し忘れたのだろうが、あれがあったばかりに、ルキーン対イリヤの
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