られない。いくら君でも、気管を切断されただけで、雷撃的な即死は考えられないだろう。それから、外傷は一つだけで、しかもその創道が自殺者以外には見ることのない方向を示していて咽喉を斜上《ななめうえ》に突き上げている。そう云うふうに目標の困難な個所を狙って一撃で効果を収ると云うことは、被害者が故意に便宜な姿勢をとらない限りは、まず不可能と見て差支えあるまい。もちろんルキーンでは、跳躍《ジャンプ》しないと傷口に届かないし、逆にラザレフが跼んでいたと考えれば、すべてがより以上に不可解になってしまう。それにまた、手燭は上から取り落された形跡がなく、着衣にも焦痕《こげあと》がないばかりか、しかも、ああ行儀よく据えられているんだ。だから、僕にはあらゆる状況に渉《わた》って、ラザレフの意志が現われているように思われるのだがね。熊城君、僕はラザレフの死に自殺を主張するぜ。」
「すると、死体はどう云う方法で、兇器を堂外に持ち出したのだね?」
「それは後から抜き取られたのだよ。君はその抜き取った人物を指して、犯人だと云ってるんだ。ところで、奇抜な想像かもしれないが、なにがラザレフを自殺させたか――述べることに
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