。無論鍵の押金が上へ向いていればこそ、可能な話なんだよ。そこで、扉の内側に入って把手を廻すと、この通り糸が鍵を引いて回転させるので掛金は下りるが、鍵の押金は下へ降り切らずに中途で糸に支えられる。で、その次に、鍵穴を通った糸を引くんだ。無論鍵の輪形の結び目が解けるから、それから把手を何度も回転して、角軸に絡めたのを弛《ゆる》めながら糸を引けば、どうだい、スルスル中へ入ってしまうだろう。そして、鍵の押金が垂直になって痕が残らないんだ。」
しかし、法水は弛んだ顔で扉を開いた。
「ところが、鐘声があるので、この思いつきだけで事件を終らせてしまうわけにはいかないのさ。構内に足跡がないと云うことは結局《とどのつまり》犯人が堂内にあり――と云う暗示なんだがね。」
検事と熊城はややしばし放心の態であったが、やがて熊城は階下へ降りて行き、二人の捕虜に対する訊問を終って来た。
「ルキーンの奴は、イリヤの話は全部それに違いないと云うのだが、行くふりをした豪徳寺行だけは、飽くまで頑張り通している――なんてヘマな不在証明《アリバイ》じゃないか。それから、ワシレンコは一種の志士業者で、右翼団体の天竜会が養って
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