一寸法師[#底本では「一寸法帥」と誤記]のマシコフと云う、寄席の軽業芸人なんで。」
「ああ、侏儒《こびと》のマシコフ!?[#「!?」は一文字、面区点番号1−8−78]」法水には、かつて彼を高座で見た記憶があった。特に強い印象は、重錘揚《じゅうすいあげ》選手みたいに畸形《きけい》的な発達をした上体と、不気味なくらい大きな顔と四|肢《し》の掌《ひら》で、肩の廻りには団々たる肉塊が、駱駝《らくだ》の背瘤《せこぶ》のように幾つも盛り上っていた。年齢は法水と同様三七、八がらみ、血色のよいヤフェクト風の丸顔で額が抜け上り、ちょっと見は柔和な商人体の容貌であるが、眼だけは、切目《きれめ》が穂槍《ほやり》形に尖っていて鋭かった。
その時、二人を発見して歩み寄ってきた検事が、不意に背後から声を掛けた。
「一体こんな時刻に、どうしてこの辺を彷徨《うろつ》いているのだね。僕は地方裁判所の検事なんだが。」
「実は、飛んだ罪な悪戯《いたずら》をした奴がおりましてな。」不意を喰って愕然《ぎょつ》と振向いた態《かたち》のままで、ルキーンは割合平然と答えた。
「皇帝《ツァール》への忠誠一筋で、うっかり偽電報を信用し
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