すように、厳しく云いつけられておりました。父なら盗み兼ねませんわ。」ジナイーダが恥入ったように嘆息するのを、熊城は得たり顔に頷いた。
「いずれ劇的《ドラマチック》な秘密のあることだろうがね。とにかく動機としての資格は充分にある。だけど法水君、そうなると、一人殺すも三人殺すも同じことになるがね。それだのに、どうして外側から下した鍵をそのままにして逃げ出したのだろう。」
「それが判れば犯人の目星がつくぜ。だが僕の想像するところでは、その原因が床の採光窓《あかりとり》だろうと思うね。ここから外壁の回転窓が見えるのだから、あれがちょうど階段の天井に当っているのだよ。だから、姉妹の誰か一人が金網をはずして硝子《ガラス》を踏み抜きさえすれば、犯人が迂回して窓の下に着く頃には、充分戸外へ飛び出してしまうことが出来る。つまり、明敏な犯人はそう云う危険な条件を悟って、昨夜は障碍《しょうがい》を一つ除いたのみに止めておき、さらに次の機会を狙うことにしたのだろうと思うね。」
それから、法水はふたたびジナイーダに、
「ところで、鍵ですが、」と訊ねた。
「鍵は、父の室と兼用のものが一つしかないのです。そして、
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