目すべき発見にぶつかった。そのナデコフ型置洋燈と云うのは、電燈普及以前|露西亜《ロシア》の上流家庭に流行《はや》ったもので、芯《しん》の加減|捻子《ねじ》がある部分にそれがなく、そこが普通型のものより遙かに大きく小大鼓形をしている。そして、鎧扉《よろいど》式に十数条の縦窓が開くようになっていて、そこから外気が入ると、上方の熱い空気との間に気流が起って、それが中央の筒にある弁を押して回転させ、徐々に芯を押し出すのである。しかし、法水に固唾《かたず》を呑ませたものは、この装置ではなく、安手の襟飾《ネクタイ》を継ぎ合せて貼ってある、台の底だった。彼が何の気なしにそれを剥がして見ると、内側の洋皮紙に――イワン・トドロイッチよりニコライ・ニコラエヴィッチ大公に贈る――と認められてあった。それを肩越しに見て、一人の外事課員が驚いたように云った。
「これですよ――四年程前|巴里《パリー》警察本部から移牒のありましたのは。大公の死後に、手ずから書かれた備品目録の中から、カライクの宝冠と皇帝《ツァール》の侍従長トドロイッチから贈られたこの置洋燈が紛失しているのです。」
「道理で、昼間はこれを寝台の下に隠
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