でしょう。ですが、その一時間も前に、絶命が医学的に証明されているのですよ。」
まさに、心臓が一時に凝縮したと云う感じだった。それより、一体どこに推定の根拠があるのか?――法水の意外な言葉に、周囲《ぐるり》の人々はいっせいに驚かされた。が、ジナイーダだけは水のように静かだった。
「医学的にどうこうは、問題ではございません。この世界は、計り知れない神秘な暗号と象徴に充ちているのですから。私は、正しくそれが父だと信じております[#「正しくそれが父だと信じております」に傍点]。しかも、その音は非常に明瞭《はっきり》しておりまして、聴き誤まる惧《おそ》れは毛頭もなかったのです。またたとえそれが、肉体の耳では聴えぬ消された音であったにしても、必ずや私には、異ならない啓示となって現われたに違いございません。」
なんたる厳粛さであろう!?[#「!?」は一文字、面区点番号1−8−78] 法水もそれに酬《むく》いるかのよう、沈痛な声音で応じた。
「なるほど。しかし、ハインリッヒ・ゾイゼ(十三世紀|独逸《ドイツ》の有名な神学者)がしばしば見た耶蘇《イエス》の幻像と云うのは、その源が親しく凝視《みつ》めて
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