いた聖画にあったと云いますがね。それに、誰やらこう云う言葉を云ったじゃありませんか。――自分の心霊を一つの花園と考え、そこに主が歩みたもうと想像するこそ楽しからずや[#「自分の心霊を一つの花園と考え、そこに主が歩みたもうと想像するこそ楽しからずや」に傍点]――とね。」
最後の一句が終らぬうちに、ジナイーダの総身に細かい顫動《せんどう》が戦《おのの》いた。が、次の瞬間、彼女はカラカラと哄笑《たかわらっ》って、「これは驚きましたわね。私を犯人に御想像なさるとは恐縮ですわ。私達が現在父からどんな酷《ひど》い目にあわされていようと、孤児院から救ってくれた大恩を考えれば、そんなことなんでもないことですわ。この点をとくと御記憶下さいまし。それに、もう一つ法水さん、永い間|費《かか》って自然科学が征服したものと云うのが、カバラ教や印度《インド》の瑜伽《ユカ》派の魔術だけに過ぎないと云うこともね……」
法水は、神学《セオロジイ》との観念上の対立以外に、嘲笑を浴びたような気がしたが、ジナイーダは相手の沈黙を流眄《ながしめ》に見て、いよいよ冷静に語《ことば》を続ける。
「で、ともかく洋燈《ランプ》を点
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