の間にか、聖職を捨ててしまって、聖器類を売払った金を資本《もとで》に、亡命人《エミグラント》達の血と膏《あぶら》を絞っているのです。そして、無論私達に対する態度も、昔の父ではございませんでした。」
「あり得ることです。」法水は重たげに頷《うなず》いた。「革命の衝撃《ショック》ですよ。大戦後の性格の激変で、それが因《もと》で起った悲劇は、かなりな数に上っていると云う話ですからね。で、その後は?」
「それから父は、過去《すぎさ》った日の栄光《はえ》を、真黒に汚れた爪で剥《は》ぎ※[#「※」は「てへん+毟」、第4水準2−78−12、138−下段14]《むし》って行きました。なかにも、わずかな金に眼が眩《くら》んだばかりに、ニコライ・ニコラエウィッチ大公のもとで例の『ジィノヴィェフの書翰《しょかん》』を偽造したぐらいですから。ですから、同志と不和を起して日本に渡った後も、やはり窮迫した人達を絞った金で、ここの堂守の株を買ったのでございます。サア、怨恨の心当りって!?[#「!?」は一文字、面区点番号1−8−78] そう云った日には、東京中の白露人全部が嫌疑者にならなくてはなりませんわ。あの貪欲と
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