がむしろ悲劇的に隔絶していることと、父の変死を伝えても、姉妹二人には睫毛《まつげ》の微動すら見られなかったことである。
「一昔前は神父フリスチァンと呼ばれた父が変死を遂げても、それが当然だと申さなくてはならないのですから……」ジナイーダは唇を歪めて、まず父親の死に冷たい嘲《あざけ》りの色を現わした。
「でも、御実父なのでしょう?」
「ところが、養父でございます。両親を一時に失った私ども二人は、慈愛深い神父フリスチァンの手許《てもと》に引き取られて、その後を実父にも優った愛《いつくし》みの下に育てられて参りました。イリヤは父の手許で、私は年頃になってから、かねての希望通り修道院に……。その頃、父はキエフの聖者と呼ばれておりましたのですが、」しかしジナイーダは、ピインと眉をはね上げて次の言葉に移った。
「ところが、一九二五年にいよいよ私のおりました僧院が破壊されたので、当時|巴里《パリー》に移っていた父のもとに戻らなければならなくなりました。すると、そこに以前とは似てもつかぬ父を見出したのでございます。ああ、なんたる変り方でしょう!?[#「!?」は一文字、面区点番号1−8−78] 父はいつ
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