らなけりゃなりません。それから兇器は、裏門側の会堂から二十|米《メートル》程離れた所で、落ちていた紙鳶《たこ》を突き破っていたのです。」
そう云って、警部は一振りの洋式短剣《ダッガー》を突き出した。銅製の鍔《つば》から束《つか》にかけて血痕が点々としていて、烏賊《いか》の甲型をした刃の部分は洗ったらしい。それがラザレフの所有品で、平生扉の後の棚の上に載せてあることが、すぐルキーンによって明らかにされた。そして、紙鳶は比較的最近のものらしい二枚半の般若《はんにゃ》で、糸に鈎切《かんぎり》がついていた。
「まさか、使者神《マーキュリー》の靴を履《は》いたわけじゃあるまいよ。」法水が動じた気色を見せなかったように、他の二人も、足跡を残さずにすむ脱出径路と不可解な兇器の遺留場所を解くものが、漠然と暗示されているような気がして、必ずや鐘楼内から、それを鑑識的に証明するものが、現われるに違いないと信じていた。だから、熊城はむしろ部下の狼狽振りに渋面を作ったほどで、さっそく法水に姉妹への訊問を促した。
扉が開かれてまず眼に映ったのは、この室の構造がラザレフの室と同一であると云うことだった。その時
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