寝室に下りるようになっている。そこには、姉妹の室で見たと同じ採光窓《あかりとり》が床にあいていて、その上を太い粗目《あらめ》の金網で覆うてあった。こう云う奇妙な構造と云い、また、この室の存在が外部からは全然想像されないのを見ても、その昔白系華やかなりし頃には、恐らく秘密な使途に当てられていたらしく思われた。しかし、室内は整然としていて、結局法水は何物にも触れることが出来なかった。
 それから、向う側にある娘達の室へ行くまでに、一つの発見があった。と云うのは、礼拝堂の円天井に当る部分の中央の床に、二個所|彩色硝子《ステインドグラス》の採光窓があいていて、そこから振綱の下にかけて、わずかではあるが、剥《は》がれ落ちたらしい凝血の小片が散在していることであった。しかし、法水はそれには一|瞥《べつ》をくれただけで、振綱の下から三尺程の所を不審げに眺めていた。そこには、短い瓦斯《ガス》管が挾んであるのだが、やがて彼は、その下から何物かを抜き取ると、それを手早くポケットに収め、そのままスタスタ歩き出した。姉妹の室の扉には掛金が下りていて、しかも鍵は、鍵穴の中に突っ込まれたままになっている。
「鍵に
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