点だと云う理由が判るよ。」それから法水はルキーンを見て、
「君が昨夜ここを出る時に、この蝋燭《ろうそく》がどのぐらいの長さだったか憶《おぼ》えているかね?」
「さよう、五|分《ぶ》ばかりでしたかな。しかし、その後にラザレフが使ったかもしれません。」
 法水は困ったような表情をしたが、すぐ着衣を脱がして屍体の全身を調べ始めた。微かに糞尿を洩らしているだけで、外傷はもちろん軽微な皮下出血の跡さえ見られない。が、腹の胴巻には札《さつ》らしい形がムックリ盛り上っている。
「これです。」ルキーンは忌々《いまいま》し気《げ》に云った。「これがラザレフ唯一の趣味なんですよ。守銭奴《シャイロック》です。こいつは。だから、可哀そうなもんですぜ。電燈料を吝《おし》んでいるのですから、姉妹二人とも薄暗い石油|洋燈《ランプ》の光で、それも、少しでもながくともせば、こいつが大騒ぎなんです。」
 屍体の検案を終ると、法水はラザレフの室に入って行った。その室は、礼拝堂の円天井と鐘楼の床に挾《はさ》まれた空隙を利用しているので、梯《てい》状に作られてあった。扉に続いて二坪程の板敷があり、それから梯子《はしご》で、下の
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