ったらしかったが、続いて両眼を詳しく調べて、
「溢血点《いっけつてん》があるな。」と呟くと、今度は屍体を仰向けにした。すると、股下の辺《あた》りから――ちょうど閾《しきい》から一寸程下った所に当るのだが――真鍮製《しんちゅうせい》の手燭が現われた。それは、直径五寸ばかりの鉢型をしたもので、堆《つい》状の火山型をした残蝋《ざんろう》が鉄芯《てつしん》の受金を火口底のようにして盛り上っている。そして、その間から百目|蝋燭《ろうそく》にも使えそうな太い鉄芯が、真黒に燻《くすぶ》ってニョッキリ突き出ていて、燃え尽きた芯がその裾の方で横倒しになっていた。ところが、手燭のあった辺の着衣を調べると、焦痕は愚かやや水平から突出している鉄芯の痕《あと》らしいものさえ見出されないのである。それも後で差込んだものでないことは、床から手燭の裾にかけて、微《かす》かながら血の飛沫《ひまつ》があるので明瞭だった。
「何だい? 大変な執念じゃないか。」手燭を置くと、法水の眼がふたたび屍体の両腕に引かれて行くので、検事は訊《き》かざるを得なくなった。
「ウン、左腕が内側へ曲っているだろう。今に君は、それが非常に重大な
前へ 次へ
全73ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング