しもこれが真実なら、実に驚くべしといわざるを得んじゃないか」
そう云ってから杏丸に、
「所で、事件を発見した顛末を伺いましょう。院長と河竹医学士とどちらが先でしたか」
「院長の方です」
といって、杏丸は、見取図を認めた紙片を取り出し、法水に与えてから、
「院長は相当時期の進んだ結核患者なので、無風の夜には、窓を開放して眠る習慣になって居るのです。ですから、今朝の八時頃でしたか、開いている窓から、異様な姿体が容易《たやす》く眼に入りました。所が、その旨を河竹へ報せに行くと、室の扉《ドア》が、押せど叩けど開かないのです。でも一時間余り待ってはみたのですが、何時になっても出て来ないので、止むなくほかの男二人と力を併せて扉を叩き破りました。すると、河竹は背後から、心臓に短剣を刺し通されて、俯向け様に斃されているのです。で、二つの室の情況をいいますと、院長の室は、中庭側の窓が開放されているだけで、扉や他の窓は残らず鍵が掛かっていました。ところが、河竹の方はどうでしょう、全然密閉された室だったのですよ。それから、屍体検案の結果は、河竹はまず論なしとしても、院長の方は、詳細剖見を待つにしろ、まず
前へ
次へ
全32ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング