、妙じゃありませんか」
「成程、失楽園の一員に……」
法水も怪訝そうに眉間を狭《ひそ》めると、
「多分、これを見たのでしょう」
といって、杏丸は最後のページを開いた。
その日付は手術の当日で、幹枝永眠す――と書いた次に、一枚の鋤《スペード》の女王《クイン》が貼り付けられ、その骨牌《かるた》の右肩に、「コスター初版聖書秘蔵場所」とまた、人物模様の上には「Morrand《モルランド》 足」と書かれてあった。
「モルランド足というのは、たしか八本指の、いわゆる過贅畸形だったね。だが、これは暗号なのかな」
法水が小首を傾けながら訊ねると、真積博士は頷いたが、その下から、
「だがコスター初版聖書とは?」と反問した。
「あったら大変だよ。それこそ歴史的な発見なのさ」
法水は頭から信じないように、
「世界最初の活字聖書は、一四五二年版のグーテンベルク本だが、それと同じ年に和蘭《オランダ》ハーレムの人コスターも、印刷器械を発明して、聖書の活字本を作ったという記録が残っているんだ。然し、この方は現在一冊も残っちゃいないけれども、グーテンベルク本は時価六十万ポンドといわれているんだぜ。だから、も
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