失楽園殺人事件
小栗虫太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)汀《なぎさ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)余程|厳《いか》つい
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、底本のページと行数)
(例)※[#「りっしんべん」に「刀」、216−下段12]利天
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一、堕天女記
湯の町Kと、汀《なぎさ》から十丁の沖合にある鵯島《ひえじま》との間に、半ば朽ちた、粗末な木橋が蜿蜒と架っている。そして、土地ではその橋の名を、詩人青秋氏の称呼が始まりで、嘆きの橋と呼んでいるのだ。
その名はいうまでもなく、鵯島には、兼常龍陽博士が私費を投じた、天女園癩療養所があるので、橋を渡る人達といえば、悉くが憂愁に鎖された、廃疾者かその家族に限られていたからであった。
所が三月十四日のこと、前夜の濃霧の名残りで、まだ焼色の靄が上空を漂うている正午頃に、その橋を、実に憂欝な顔をして法水麟太郎《のりみずりんたろう》が渡っていた。せめて四、五日もの静養と思い、切角無理を重ね作った休暇ではあったが、その折も折、構内に於い
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