ければなりません。そうすると、飛去来器《ブーメラング》使用の犯行が、すっかり行き詰まってしまうのですが、私は不図した思い付きで、復路が終ろうとする際に、もう一度、飛来する力を与えたらと思いました」
「なに、もう一度……」
 真積博士は、驚いたように顔を挙げたが、その眼を法水は、冷やかに弾き返して、
「つまり、折り返した時の大きな弧線の中途で、反対の方向へ、もう一度弾き飛ばす動力に思い当ったからです。その力が、煙硝の燃焼でした。そうなると、今度は基点が変って、博士と同じ棟にある、河竹の室になるのですが、まず飛去来器を、対岸の杏丸氏の実験室に飛び込ませるとその折返《おりかえ》した大きな弧線が、兼常博士の室に入ります。その時、煙硝が燃えたのですから、膜嚢を排出した時の排気の反動で、恰度ロケットのような現象が現われたのです。ですから、その新しい力を与えられた飛去来器は、再び来た線を逆行して、もとの杏丸氏の実験室の中へ飛び込んでしまったのですよ」
 そうなってみると、一体犯人が誰なのやら、とんと霧中を彷徨うの感じだった。現象的には、解決の近さを感ずるとは云え、肝心な一人の名――それが法水の口から
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