ハ、ところが、鹿子より以上の嫌疑者がいますぜ」
「なに、鹿子以上の?」
 杏丸は驚いて叫んだ。
「それが杏丸さん、貴方だとしたらどうしますね」
 法水は止めを刺すようにいった。
「先刻、貴方の実験室の棚の中から、こんなものを発見したのです。このくの字なりの木片は、御覧の通り飛去来器《ブーメラング》(いわゆる『飛んで来い』という玩具)です。そして、それを銜《くわ》えている、穴のある紙製の球形は何んでしょうかねえ。僕は大体において、この事件が判ったような気がして来ました。サア、貴方がたは本島の方へ行って、しばらく僕を静かに考えさせて下さい」

三、コスター聖書を曝く

 真積博士をはじめ関係者一同が、片唾をのんでいる席上へ、法水が現われたのは、日没を過ぎて間もなくの事だった。そして、席につくや静かにいった。
「犯人が解りました」
「コスター聖書の在所《ありか》もですか」
 サッと引き緊った空気の中で、まるで殺人事件には関心がないかのよう、鹿子が始めてコスター聖書のことを口に出した。
 その唇は鉛色に変って、戦《おのの》いている顳※[#「需」+「頁」、218−下段12]《こめかみ》からは汗が
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