それに、鹿子が見た光というのが、また問題です。それが、ガラス窓越しに中庭の向うから放たれたのだとすると、見た通りガラス盤の後方は、二人の死蝋が着ている、朱丹と緑青色の布とで塞がっているのですから、あの様に真白に見える、気遣いはないのです。いよいよ以って、妖しい光は、ガラス盤の周囲で起ったことになりますよ。犯人は、明白に吾々四人以外の、霧のような人物です。それなのに、どうして貴方は?」
「その理由はほかにあるのですよ」
法水は静かにいった。
「で、こういったら、或は皮肉と考えられるかも知れませんが、鹿子の目撃談が[*「鹿子の目撃談が」に傍点]、真実に証明されたからなんです[*「真実に証明されたからなんです」に傍点]。ねえ杏丸さん、その刻限が、恰度博士の絶命時刻に、符号しているでしょう。ですから、暈《ぼつ》とした気体のようなものから、結晶を作ってくれる、媒剤を発見した気持がしたのですよ。つまり、以毒制毒の法則が使えるからです。謎を以って謎を制すのです」
「だが、犯罪の捜査に弁証法は信ぜられませんな」
杏丸は反駁した。
「何より直覚ですよ。貴方は何故鹿子を追求しないのです?」
「ハハハハ
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