糸を引き、その眼には明らかに、Oの素晴らしい行列を追うている、卑しい欲求が燃え熾《さか》っている。
「左様、コスター聖書もです。では、順序を追ってお話し致しますが、所で、私を分析にまで導いて呉れた鍵《キー》というのが、何あろう鹿子さん、実は貴女の眼だったのですよ」
と騒然となった一同を制して、法水は語り始めた。
「如何にも、あの目撃談は真実です。まさに、妖しい白光が起り、内部の膜嚢は動いたのでした。すると、無論その光の光源が、硝子盤の附近にあれば、事実あの室に人間が潜んでいたか、それとも、超自然の妖怪現象になるのですが、飽くまでも実在性を信じたい私は、その光源を、硝子盤の遙か後方に持って行ったのです。けれども、硝子盤の背後には死蝋が着ている、朱丹と緑青色の衣裳があって、それが障碍《しょうがい》になります。然し、この場合は却ってその障碍が、鹿子さんの眼にあり得ない不思議を映したのでした。鹿子さん、たしか貴方の眼は、軽微な赤緑色盲に罹っているのですね」
「それを、よくマア御存知で……」
と思わず鹿子は、驚嘆の声を発して、法水の顔を呆れたように見入った。
しかし、法水は事務的に続ける。
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