れでなければ、妹はじめ二人の方が、生きていた事になるのです。実は私、不思議なものを見たのですわ」
と、まざまざ恐怖の色を泛かべて、鹿子は語り始めた。
「その折、何処かで二時を打ちましたが、私は最後に残った、一本の燐寸を擦りました。すると急に硝子盤が、真白な光で明るくなったかと思うと、恰度|内部《なか》を掻き廻しているかのように、嚢のようなものが浮きつ沈みつ動いて行くのです。それも、ホンの一、二秒の間でしたが、私はハッと思った瞬間、駭きと疲労とで、気を失ってしまったので御座います。断じて、幻覚では御座いません。その真実なことは、是非信じて頂きたいと思いますわ」
驚いた二人は、思わず慄然としたように視線を合わせたが、杏丸は信ぜられないかの如くに呟いた。
「もし、なかの膜嚢が、破れてでもいるのでしたら、腐敗瓦斯の発散で、動くこともあるでしょうがね。然し、その光というのだけは、どうしても判らん。確かに吾々以外の人物が潜んでいるんだ――其奴が屹度犯人なんですよ」
そして、狐の様に刺々《とげとげ》しい、鹿子の顔を凝視《みつ》めるのだった。
こうして、訊問は終了したが、鹿子はコスター聖書に関
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