が付きませんか。その放射状に、なんだか意味がありそうですね。そうなると、後の硝子窓には、掛金が下りているのですから、この形が何んとなく、博士に加わった不可解な力を、暗示しているようじゃありませんか。とにかくこの情況は、明白に自然死ではありません。そして、他殺にしろ自殺にしろ、この形に、博士の死の秘密があるのです」
 こうして、死因不明のままに博士の室を出ると、その足で、調査を河竹医学士の室に移した。
 その室は、同じ棟の中で、間に小室を一つ挟んでいるのだが、窓は凡て鎖され、打ち破った扉だけが開かれていた。室の四辺は、殆んど実験設備が埋めていて、その中央に、寝衣《ねまき》の上にドレッシングガウンを羽織った河竹医学士が、扉の方に足を向け、大の字なりに俯伏している。
 そして、その背後には、恰度心臓部に当る辺に、柄も埋まらんばかりに深く、一本の短剣が突き刺さっているのだが、血は創口《きずぐち》の周囲に盛り上がっているだけで、附近には血滴一つない。おまけに、室内で眼に止った現象といえば、屍体の足下に椅子が一脚倒れているのみであった。
 なお、短剣も河竹の所有品で、犯人が手袋を用いたと見え、柄に
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