杏丸医学士の説明により、俄然注目さるるに至った。
「実は私も不審に思っているのです。これは、幹枝の腹水と一緒に取り出された、膜嚢なんですからね。当時、三十幾つか取り出されて、現在は屍蝋室の硝子盤の中に貯蔵されているのですがなかには膜が、相当強靭なものもあるのですよ」
「なるほど」
 と法水も頷いたが、
「全く腹腔内の異物が、こんな所に散乱しているなんて、実に薄気味悪い話です。けれども、そう思うのは、これを犯罪の表徴《シンボル》だとするからですよ。もし、兇器の一部だとしたら……」
「オヤオヤ、他殺説を持ち出されると、前が私の室ですからね。しかし、この膜嚢に有毒瓦斯を詰めたと仮定しても、これだけの距離を投擲する前に、第一この薄い膜が無事ではいないでしょう。そうすると今度は、中庭に足跡がないと、いうことになってしまうのです」
 と嗤うような杏丸の顔に、法水は皮肉な微笑を投げた。
「いや、足跡なんぞは要りません。大体この膜嚢は、中庭とは反対の方角から、投げられているのですからね」
 膜嚢の一つ一つを指し示して、
「貴方は、此処にある全部を連らねて行くと、その線が、屍体を中心とした、半円なのに気
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