くし、静かに、いまや氷原の真っただ中で、眠りゆこうとするのだ。
 紅琴は驚いて、自分の胸を開き、暖めようとしたが、フローラは微笑んで、じっと紅琴の手を握りしめるのみであった。明らかにそれは、フローラにとって、もっとも不幸な瞬間が近づいたのを、紅琴に思わせた。
 彼女は、胸に顔に、熱い息を吐きかけて、狂ったように叫びはじめた。
「これ、気を引きとめて、フローラ、もうしばしがほどじゃ。まだ、見えるであろうな聞こえるであろうな、そのいじらしさに、私は胸のつぶれる思いがしまする。私は、いまここで、黄金郷《エルドラドー》の所在を、突き止めることができたのですよ。フローラ、そもじこそ、不滅の黄金都市、エルドラドーの女王なのじゃ」
 その瞬間、フローラの頬にほんのり紅味《あかみ》がさして、死の影の中から、はっきりとした驚きの色が現われた。
 紅琴は、なおも続けて、
「と言って、何もラショワ島にもどるでもなく、この島にもない、それは、そもじの身内の中にあるのじゃ。実は EL DORADO RA と書かれたのは、黄金郷の所在ではなく、そもじと母のドラとベーリング――この三人の間の秘密なのじゃ。
 そもじ
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