の母のドラは、ベーリングの従妹《いとこ》とか言うたが、ステツレルに嫁《とつ》ぐまえ、ベーリングと懇《ねんご》ろにしおったのであろう。そのとき、妊《みごも》ったのがそもじで、その名をベーリングが、末期の際に書いたというのも、ステツレルに対する懺悔《ざんげ》の印なのじゃ。
なぜなら EL のEは、Fの見誤りで、次にあるDの字は、腐肉に現われた自然の斑文《はんもん》。その時、ベーリングは、Dの前にある腫粒《いぼ》に触れたために――のう、よいかフローラ、盲者というものは、粒のように微細な点でも、それに触れると、ひどく大きく感ずるものなのじゃ。それで、次のDを飛び越えて、EL DORADO RA と書いたものと思われます。
どうじゃ、わかったであろうな、それはラショワ島を暗示する、黄金郷《エルドラドー》の所在ではなく、そもじの FLORA《フローラ》 と、母の DORA《ドラ》 の名を連らねたもの。それゆえ、そもじの父はステツレルではなく、ベーリング海峡の発見者、ヴィツス・ベーリングなのじゃ。愛《いと》しのフローラよ、そもじの悩みは、貴い涙となって、父の顔の上に落ちまするぞ」
フローラは、
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