の一部分が、露出しているために、背後に太陽があり、切れ海霧《ガス》が丸うなってそばを通ると、あのとおり、金色の幻暈《かさ》を現わすのじゃ。したが私は、誓って終局の鍵《かぎ》が、ベーリング島にあると思うのです。そして、ベーリングの空骸《むくろ》に印された遺書を見るまでは、なんで黄金郷の夢が捨てられましょうぞ」
「おお、それでは……それでは、これからベーリング島へ行くのでございますか」
とフローラは、たまらず不安と寂寥《せきりょう》に駆られて、低く声を震わせた。
しかし、同時に彼女は、何事かを悟ったと見え、全身がワナワナとおののきだした。というのは、いま紅琴に説かれた黄金郷の正体が、ついぞ先刻、自分の頭上を飾った、後光と同じ理論に落ちたからである。
それが、いわゆる仏の御光(露が鏡面のように働いて、草の葉の面に太陽の像を現わし、また、その像が光源となり光線が逆もどりして、太陽のあるほうの側に、像ができる。そして、人の眼が、この像のできたところにあれば、露の中から、光を放っているように見えるのだ)――露に映した、自分の頭上に光輪が輝くことは、だれ一人知らぬ者とてない、普遍の道理ではない
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