がようわかれば、なぜ私が、無辜《むこ》のグレプニツキーを殺《あや》めたか、合点がいったであろうのう。私たちが島を去ったのち、見す見すあの者に、支配されるのを口惜しゅう思ったからじゃ。もう私は、ラショワ島の主でも、黄金郷の女王でもない。そもじと同じ、ただの女にすぎませぬのじゃ」
と紅琴は、伸び上がり伸び上がり、次第に点と消えゆく、島影に名残りを惜しんでいたが、その時、島の頂きに当たって、音のない爆音を聞いた心持ちがした。
突如、地平のはるか下から、白夜を押し上げるようにして、燦然《さんぜん》たる金色の暈《かさ》が現われたからである。
それを見ると、フローラは紅琴の裾《すそ》に泣き伏して、よよとばかりに歔欷《すす》り上げた。
「あ、あまりな御短慮ですわ。見す見すあの黄金郷を捨てて、奥方様はどこへおいでになるおつもりでございます?」
「いえいえ、私たちは、黄金郷へ行くのですよ」
紅琴は、意外にも落ち着いた声で、そう言った。
「実を言うと、グレプニツキーをはじめ、島の頂きにある鉱脈に惑わされたのじゃ。あれは、黄銅といって、色は黄金に似ているとはいえ、価格に至っては振り向くものもない、そ
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