の所在を明らかにするについては、陸では聴く耳があるかもしれませぬ。私たち二人は、沖に出て話すことにしましょう」
 と先刻は、鉄を断つ勢いを示したにもかかわらず、その紅琴が、なぜかもの淋《さび》しく微笑《ほほえ》んで、一|艘《そう》の小船を仕立てさせた。
 次第に、フローラの体には、塩気が粘りはじめて、岩城《いわしろ》の頂きが、遠く亡霊のようにぼんやりと見えた。うねりは緩《ゆる》く大きく、船はすでに、二カイリの沖合に出ていた。
 するとその時、意外にも、紅琴の瞼《まぶた》がぬれているのを見て、フローラは驚いた。
「おや、奥方さま、なぜにお泣きでございますの。御兄弟お二人を失ったとはいえ、ラショワ島の御主、黄金郷の女王となったあなたさまに、涙は不吉でございますのよ」
「いえいえフローラ、私たちは、いまこそ島に別れを告げねばならぬのです。おお、あの岩城、横蔵、慈悲太郎――これからは、二人の塚《つか》を訪れる者とてないであろう。したが、そもじは気づかぬであろうけれど、あの二人がこの世を去ったとすれば、当然火器を作って、土民たちを従えるに足る者が、島にはいのうなったはずじゃ。その理由《ことわり》
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