為でありましょうぞ」
「ホホホホホ、なんと黄金郷とお言いやるのか……」
 女丈夫は、蒼白い頬をキュッと引きしめて、嗤《わら》い返した。
「その所在なら、そもじは、不要じゃと言いたいがのう。妾はそうと知ればこそ、このラショワ島に砦《とりで》を築いたのじゃ」
 と、何やら合図めいた眼配せをしたかと思うと、もがいて投げつけられたグレプニツキーの上で、幾つとない銀色の光が入り交じった。
 彼は、しばらく手足をばたばたとさせ、狂わしげにもだえていたが、やがて瞼《まぶた》が重たく垂れ呻《うめ》きの声が途絶えると、そのまま硬く動かなくなってしまった。
 紅琴は、しばらく眼を伏せて、グレプニツキーの死体を、気抜けしたように見つめていた。白っぽい、どんよりとした光の中で、海鳥が狂おしげに鳴き叫んでいたが、やがて、血が塩水にまじって沖に引き去られてしまうと、浜辺はふたたび旧の静寂にもどった。
 そこへ、フローラは不審気な顔で、紅琴の耳に口を寄せた。
「でも、ほんとうでしょうか、奥方様。ほんとうに、黄金郷《エルドラドー》の所在を御存じなのでございますか」
「知らないで、なんとしようぞ。フローラ、そもじに、そ
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