な爆笑を立てた。
「これは奥方様、お戯れにも、ほどがあるというもの。なるほど、靴を脱いでしまえば、片足には音がないのですから、さような御推測も、無理とは思いませぬが、しかし、黄金郷《エルドラドー》の探検を、共にと誓った御両所を、なんで害《あや》めましょうぞ。神も御照覧あれ、手厚いおもてなしに感謝すればとて、敵対の意志など、毫《ごう》も私にはござりませぬのじゃ」
と、はだけたシャツの下から、取り出した十字架《クルス》に接吻《せっぷん》するのだった。
しかし、紅琴は、凝視を休めず言い続けた。
「ええ、そのような世迷いごとに、聴く耳は持たぬわ。この島の法《のり》は、とりも直さず妾自身なのじゃ。とくと真実《まこと》を打ち明けて、来世を願うのが、為《ため》であろうぞ」
すると、グレプニツキーは、相手の顔をじっとみつめていたが、見る見る絶望の表情ものすごく、胸をかきむしって、咆《ほ》え哮《た》けるような声を出した。
「馬鹿な、短慮にはやって、せっかく手に入ろうとする、黄金郷《エルドラドー》を失おうとする大痴者《おおたわけもの》めが。したが奥方、とくと胸に手を置いて、もう一度勘考したほうが、お
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