きは、葉末の露に、顔を映せば消えることです。独り胸を痛めて、私は、ほんとうに哀《いと》おしゅう思いまする。すでにそもじは、十字架に上りやったこととて、基督《ハリストス》とても、そもじの罪障《とが》を責めることはできませぬぞ」
そういわれたとき、フローラは、眼前にこの世ならぬ奇跡が現われたのを知った。
眼が薄闇《うすやみ》に馴《な》れるにつれて彼女の眼は、ある一点に落ちて、動かなくなってしまった。
それは、葉末の露に映った、自分の頭上に、見るも燦然《さんぜん》たる後光が照り輝いていて、またその光は、首から肩にかけた、一寸ばかりの空間を、透《す》んだ蒼白《あおじろ》い、清冽《せいれつ》な輝きで覆うているのだ。
とめどなく、重たい涙が両|頬《ほお》を伝わり落ちて、歓喜のすすり泣きが、彼女の胸を深く、波打たせた。
が、そのとき、紅琴の凛然《りんぜん》たる声を背後に聞いたのだった。
「だが、そもじの罪障は消えたとて、二人を殺《あや》めた下郎の業《ごう》は永劫《えいごう》じゃ、私は、今日これから、そなたの前で、そやつを訊《ただ》し上げてみせますぞ」
それから、小半刻《こはんとき》ばかり
前へ
次へ
全58ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング